「喉を開いて歌ってみて」発声練習で、そう言われたことはありませんか。
その中でもよく使われるのが、“あくびで歌う”という感覚です。
けれど実際にやってみると、
- ただ口を大きく開けているだけになってしまう
- 高音がかえって不安定になる
- 本当に正しいのか分からない
という声も少なくありません。
そこでこの記事では、あくびで歌う発声とは何か、具体的にどうやればいいのか、あくびの発声が向いている人とそうでない人などについてご紹介します。
1|あくび発声で、体の中に何が起きているのか
あくびをすると、口の奥の天井がふわっと持ち上がります。
この部分は「軟口蓋(なんこうがい)」と呼ばれ、声の響きを左右する大切な場所です。
軟口蓋が持ち上がると、喉の奥の空間(咽頭腔)が広がります。
声が通る通路に余裕が生まれ、音が奥で押しつぶされにくくなります。
その結果、声は縦にすっと抜けやすくなります。
ここで大切なのは、あくび発声とは“喉を力で開くこと”ではない、ということ。やっているのは、声の通り道にスペースをつくることです。
2|「喉を開く」は、声帯を開くことではない
発声しているとき、声帯はきちんと閉じた状態で振動しています。
「喉を開く」という言葉から、声帯そのものを開くイメージを持つ人もいますが、実際に開いているのは声帯ではありません。
声帯は“音を作る場所”。口や喉の奥は“音が通り、育っていく場所”。あくび発声で整えているのは、この“音の通り道”のほうです。
奥の空間に余裕ができることで、作られた音が自然に広がります。音を強くしているのではなく、音が育つ環境を整えているのです。
3|なぜ高音が楽になるのか
声の響きは、声帯そのものよりも「声道(vocal tract)」の形に大きく左右されます。
音声科学でも、声は作られたあとに通る空間によって性質が変わるとされています。
つまり、口や喉の奥の形が変わると、声の響きも変わるということ。ギターで例えるなら、弦だけでなく“ボディ”が音を決めるようなものです。
空間が整うと、以下のような変化が起こります。
- 声に厚みが出る
- 高音が苦しくなりにくい
- 張り上げが減る
力を足しているのではありません。喉が締まる原因を減らしているだけです。
4|正しいあくび発声のやり方
あくび発声のコツは、頑張らないこと。
- 小さなあくびを作る
- 顎を落としすぎない
- 息をやさしく吸う
- 「ファー」と軽く声を出す
ここで一番大事なのは、吸いすぎないことです。
大きく吸い込もうとすると、首や喉が固まり、逆に喉が締まりやすくなります。「まだ少し入るかも」くらいで止めるほうが、空間は自然に広がります。
喉を広げるのではなく、余計な力を抜いてスペースを感じる練習です。
5|あくび発声が向いている人・別の方法が合う人
効果を感じやすい人
- 高音で喉が締まる
- カラオケでサビが苦しくなる
- 張り上げになりやすい
- 声が平たく聞こえる
共鳴空間が狭くなりやすいタイプです。
別のアプローチが合う人
- 息漏れが多い
- 声が軽くなりすぎる
- すでに頭声傾向が強い
空間を広げすぎると、芯が薄くなる場合もあります。あくび発声は万能ではありません。 大切なのは、自分の状態に合わせて選ぶことです。
6|カラオケでの実践法
サビ前の1秒リセット
サビ直前で軽く息を吸い、奥の空間を整えてから歌い出します。
「奥にスペースを残したまま出す」感覚です。
これだけで、張り上げを防ぎやすくなります。
ロングトーンの安定
「あ」を横に広げすぎず、奥を縦に保つ。
空間を保ったまま伸ばすだけで、音程が安定しやすくなります。
7|よくある誤解
- 口を大きく開ければいいわけではない
- 顎を落とせば喉が開くわけではない
- あくび発声は低音専用ではない
整えているのは“奥の空間”。高音ほど、その余裕が必要になります。中には、口の開け方はばっちりなのですが、体や顔が強張っているケースも見られます。
そんな時は一度、「はぁ」とため息をついて、体や顔の強張りをリセットしてからトライすることをおすすめします。
8|あくび発声は共鳴空間のコントロールに役立つ
あくび発声は、共鳴空間をコントロールするための基礎練習です。喉を締めない環境を作る、土台づくり。
最終的に目指すのは、意図的に空間を調整できる状態。あくび発声はその入口です。
感覚と構造がつながったとき、歌はもっと自由になることでしょう
参考理論
- Ingo R. Titze
- Richard Miller(声道共鳴理論・発声理論)
