歌を録音して聴いたとき、「音程がずれている気がする」と感じることがあります。

ボイストレーニングやレコーディングでは、「今の音、少しピッチが低いね」と言われることもあります。

どちらも音の高さについて話しているので、音程とピッチを同じ意味だと思っていても不思議ではありません。実際、歌の現場ではかなり近い意味で使われることもあります。

ただ、音楽理論ではこの2つは少し違います。

簡単に分けると、音程は2つの音の間にどれくらい距離があるか、ピッチはその音がどれくらい高く、または低く聞こえるかを表す言葉です。

ただし、歌になると話はもう少し複雑です。

音が外れる理由は「耳が悪いから」とは限りません。歌い出しだけ外れる人もいれば、大きく音が跳ぶ場所だけ難しい人、高音になると少し低くなる人、伸ばしている途中でピッチが下がる人もいます。

音程とピッチの意味を覚えること自体がゴールではありません。

自分の歌では、どの瞬間に何がずれているのか。

そこまで分けて見られるようになると、必要な練習も選びやすくなります。

音程とは「2つの音の距離」のこと

音程とは「2つの音の距離」のこと

音程は英語では「interval(インターバル)」と呼ばれます。

音楽理論でいう音程は、ある音と別の音の間にどれくらい高さの差があるかを表すものです。

たとえば、「ド」から「レ」へ進む場合と、「ド」から「ソ」へ進む場合では、音の移動量が違います。この違いが音程です。

音程は「度数」で表せる

ピアノの鍵盤を思い浮かべるとわかりやすくなります。

「ド」を1番目として数えると、

  • ド→レ:2度
  • ド→ミ:3度
  • ド→ファ:4度
  • ド→ソ:5度
  • ド→1オクターブ上のド:8度

となります。

ここでいう「2度」「3度」は、単純に鍵盤が何個離れているかだけではなく、音名をいくつまたぐかを表しています。

歌でメロディーを覚えるときも、「ここは隣の音へ動く」「ここで一気に5度上がる」のように、音と音の距離を感じながら歌うことがあります。

同じ「2度」でも距離は同じではない

もう少し細かく見ると、同じ2度でも幅が違います。

ピアノでは、隣り合う鍵盤同士の最小単位が半音です。

「ド→ド♯」は半音、「ド→レ」は半音2つ分なので全音になります。一方、「ミ→ファ」は間に黒鍵がないため半音です。

そのため、以下のようになります。

ド→レ=長2度

ミ→ファ=短2度

どちらも「2度」ですが、実際の音の幅は違います。

歌で音程を取るときに大切なのは、音名だけを覚えることではなく、こうした前の音から次の音までの距離を感じられることです。

ピッチとは「知覚される音の高さ」

ピッチは、音がどれくらい高く、または低く聞こえるかを表す言葉です。

少し専門的には、音響学では、音を低いものから高いものへと並べられる知覚上の性質として扱われます。

ここで大切なのは、ピッチと周波数は関係していますが、完全に同じ意味ではないという点です。

周波数はHz(ヘルツ)という物理量で測ります。一方、ピッチは私たちがその音を「高い」「低い」と感じる知覚です。

特に人の声のように複数の周波数成分を含む音では、ピッチを単純に「○Hzそのもの」と考えるより、音の高さとして知覚される性質と考えた方がわかりやすくなります。

440Hzの「ラ」は何を表している?

音楽では、楽器同士の高さをそろえるために基準となる音を決めます。

国際規格ISO 16では、標準調律周波数としてA4の「ラ」を440Hzとしています。

A4=440Hzを基準に調律する場合は、その高さを基準にほかの音も決めていきます。

歌の練習で「ピッチが少し低い」と言うときは、狙っている音に対して、実際に出した声が少し低い方向へずれている状態を指すことがあります。

逆に少し高ければ、「ピッチが高い」「シャープしている」と表現することがあります。

ピッチとキーも別の言葉

カラオケでは「キーを2つ上げる」「原曲キーでは高い」という言い方もします。

キーは、曲全体の調や、カラオケで曲全体をどの高さへ移動するかについて使われる言葉です。

たとえばカラオケでキーを1つ上げれば、基本的には曲全体が半音上へ移動します。

一方で、「サビのこの一音だけ少し低い」「伸ばしている途中でピッチが下がっている」という場合は、曲全体のキーではなく、一つひとつの音の高さの問題です。

キーは曲全体の高さを移動する話、ピッチは一つひとつの音がどの高さにあるかを見る話と分けると整理しやすくなります。

「音程が外れる」と「ピッチがずれる」は歌ではどう違う?

ここは少しややこしいところです。

音楽理論上の厳密な意味では、音程=2音間の距離、ピッチ=音の高さとして知覚されるものです。

ただ、実際の歌唱指導やカラオケでは、「音程」という言葉がもう少し広い意味で使われています。

「音程が外れた」と言ったときに、毎回「2つの音のintervalが不正確だった」という厳密な意味だけを指しているわけではありません。多くの場合、メロディーの狙った音から声がずれたという意味でも使われます。

歌の現場では、こう分けるとわかりやすい

状態よく使われる表現見ていること
メロディー自体を違う音で覚えている音程が違うどの音へ移動するか
音が大きく跳ぶところで届かない音程が外れる音と音の距離
狙った音より少しだけ低いピッチが低いその音の細かな高さ
ロングトーンの途中で少し下がるピッチが下がる一音の中での高さの変化
高音だけ全体に低くなるピッチが不安定高音域で狙った高さを保てるか

この分け方は、音楽理論上の厳密な用語分類というより、歌の状態を整理するための実用的な見方です。

実際の歌では、音程とピッチの問題が同時に起こることもあります。

そのため、「これは音程?ピッチ?」と名前を正確に当てることよりも、どの音で、どんなずれ方をしているかを見る方が練習には役立ちます。

音程やピッチが合わない理由は「音感」だけではない

「音程が取れない」と感じると、「自分には音感がないのかもしれない」と考えることがあります。

もちろん、狙った音を聴き分けたり、音同士の距離を捉えたりする力は歌に関係します。

ただ、それだけで決めるのは早いです。

歌うときには、聞いた音や頭の中にある音を、実際の声として再現する必要があります。

つまり、音を認識することと、その高さまで声を動かすことの両方が関わっています。

歌唱のピッチ精度を調べた研究でも、ずれ方は練習経験だけではなく、テンポ、音域、レガート/スタッカート、音が上がるか下がるかなど、歌う条件によって変化しています。

「音程が悪い=耳が悪い」と一つの原因にまとめない方がよい理由です。

歌い出しだけずれる

曲の途中は歌えているのに、最初の一音だけ高くなったり低くなったりすることがあります。

この場合は、曲全体の音程が取れていないというより、声を出す前に最初の音をどれくらいイメージできているかを見る方が整理しやすくなります。

伴奏の中から基準になる音を見つけたり、最初の音だけピアノで鳴らしてから声を出したりすると、どこに違いがあるのかを確認できます。

音が大きく跳ぶところだけ外れる

隣り合う音は歌えるのに、「ド→ソ」「ラ→高いミ」のように大きく音が動くところだけ外れる場合があります。

このタイプでは、単音を何度も当てる練習より、2つの音の距離を確認する練習が使いやすくなります。

高音になると低くなる

メロディーはわかっていても、高音になるほど狙った高さまで届かなくなることがあります。

ここでは耳だけでなく、現在の音域、声量、発声の負荷なども分けて考えます。

高音が出にくい原因については、「高音が出ない理由は、ひとつじゃない。」という記事で詳しく書いていますが、力み・息の使い方・キーなど、複数の要素が重なっていることがあります。

音を頭ではわかっているのに身体的に出しづらい状態なら、音感練習だけを増やしても変化しにくいことがあります。

伸ばしている途中で下がる

歌い出しでは合っているのに、「あー」と伸ばしている途中で徐々に音が下がる場合もあります。

この場合は「その音がわかっていない」というより、一度合わせた高さを保つところに課題がある可能性があります。

同じ音を短く出す場合と長く伸ばす場合を比べると、違いを確認しやすくなります。

音程・ピッチを改善する前に、ずれる瞬間を確認する

音程練習を始める前に、一度自分の歌を録音してみると整理しやすくなります。

ただし、一曲全部を聞いて「音程が悪い」と判断すると、何を直せばいいのかわからなくなります。

見る範囲を狭くします。

まずは気になる1フレーズだけで構いません。

声を出した瞬間を見る

最初の音からすでにずれているのか。それとも、最初は合っているのか。

歌い出しから違うなら、基準音の確認や声を出す前の音のイメージから見直せます。

音が動いた瞬間を見る

最初の音は合っているけれど、次の音へ移った瞬間にずれるなら、音と音の距離を見る必要があります。

特に、大きく跳ぶところだけか、下がるときだけか、速いフレーズだけかを分けると、練習する場所を絞れます。

言葉が変わった瞬間を見る

母音や子音が変わる瞬間に、ピッチまで動くことがあります。

この場合、一度歌詞を外して「ラララ」や母音だけで歌い、元の歌詞と比べる方法があります。

歌詞を外すと安定するなら、音を覚えること以外の要素も関係している可能性があります。

伸ばしている途中を見る

最初は合っているのに後半だけ下がるなら、その一音だけを録音して確認します。

「合っている・外れている」の2択ではなく、どの瞬間から変わったかを見るのがポイントです。

音程を取りやすくする練習

音程、つまり音と音の距離を捉えたい場合は、基準になる音から別の音へ動く練習が使えます。

まず2音だけで比べる

ピアノやキーボードアプリで、「ド→レ」「ド→ミ」「ド→ソ」のように2音だけ鳴らし、同じように声を動かします。

最初から1オクターブすべてを歌う必要はありません。

「今は隣へ動いた」「今はかなり上へ動いた」と、音の距離を感じながら声を合わせていきます。

上方向だけでなく、「ド→シ」「ド→ラ」「ド→ソ」のように下方向も確認すると、上がるときと下がるときのどちらが難しいのかも見えてきます。

大きく跳ぶ場所だけ切り出す

曲の中で外れる場所がわかっているなら、その前後2音だけを取り出します。

たとえば、「サビの最初の2音だけ」「Aメロで急に上がるところだけ」という形です。

一曲を繰り返すより、音と音の距離を意識しやすくなります。

移動ドは、音の役割を捉える方法の一つ

移動ド唱法では、曲の主音を「ド」として、音階の中での役割をド・レ・ミで捉えます。

たとえばGメジャーなら、実際のGの音を「ド」と考え、その調の中でドレミファソラシドと歌います。

絶対的な音名を覚えるというより、今いるキーの中で、次の音がどこにあるかを感じるための方法です。

移動ドが使いやすい人もいれば、「C・D・E」などの音名や、「1・2・3」のような数字で考えた方がわかりやすい人もいます。

ひとつの方法に統一する必要はありません。

ピッチを確認する練習

狙った一音に対して、自分の声が少し高い・低いという場合は、一音ずつ確認するところから始められます。

基準音を鳴らして、同じ音を出す

ピアノなどで一音を鳴らし、その音に声を重ねます。

このとき、いきなり大きな声を出す必要はありません。

話し声に近い音量でも合わせられるかを見ると、高さそのものと声量の影響を分けやすくなります。

チューナーやピッチモニターは「答え」ではなく確認に使う

チューナーやボーカル用のピッチモニターを使うと、自分の声が狙った音より高いか低いかを視覚的に確認できます。

ただし、画面の中心に針を固定することだけを練習の目的にする必要はありません。

歌では、ビブラート、しゃくり、ポルタメントなど、意図的に音高を動かす表現もあります。

まずは、まっすぐ一音を出したときに、狙った高さの周辺に声を置けるかを見る道具として使う方がわかりやすいです。

いつもの歌い方と条件を変えた歌い方を比べる

同じフレーズを2回録ります。

1回目はいつもの歌い方。

2回目は、少しテンポを落とす、音量を下げる、母音だけで歌うなど、条件を一つだけ変えます。

歌唱のピッチ精度は、テンポや音域、発音条件などによって変化することが研究でも示されています。

変える条件は一度に一つにすると、何によって歌いやすくなったのかを確認しやすくなります。

絶対音感がなくても、音程やピッチは練習できる

絶対音感とは、基準となる音を聞かなくても、聞いた音の音名を判断したり、指定された高さを出したりする能力です。

絶対音感については、幼少期の音楽経験との関連が広く研究されてきました。一方で、成人を対象とした研究でも、訓練によって音高の識別能力が向上した例が報告されています。

ただし、個人差は大きく、「大人でも誰でも絶対音感を身につけられる」と言える段階ではありません。

そして、歌の音程を安定させるために、絶対音感を持っている必要もありません。

基準になる音を聞いて、そこから次の音との距離を捉える。

自分の声が狙った音より高いか低いかを聞く。

録音して、ずれる場所を確認する。

こうした力も、歌ううえでは十分に役立ちます。

そのため、「絶対音感がないから音程を取れない」と考えるより、今の自分がどの場面で音を捉えにくくなっているのかを見る方が、練習の方向を決めやすくなります。

うまくいかないときは「音感不足」でまとめない

練習しても同じ場所で音が外れるなら、「もっと耳を鍛えないと」と練習量だけを増やす前に、条件を少し分けてみます。

ピアノと同じ音なら出せるけれど、曲になると外れる。

ゆっくりなら歌えるけれど、原曲テンポでは外れる。

低いキーなら歌えるけれど、原曲キーでは低くなる。

母音だけなら安定するけれど、歌詞をつけるとずれる。

最初の音は合うけれど、長く伸ばすと下がる。

こうした違いがあれば、少なくとも「音が聞き分けられない」だけでは説明できません。

特に高音だけでピッチが崩れる場合は、現在の音域や発声の負荷も一緒に見た方が整理しやすくなります。

音程練習と発声練習は、完全に別々のものではありません。

耳で狙う高さがわかることと、その高さへ無理なく声を動かせること。

歌では、その両方がつながっています。

まとめ|「音程が悪い」でまとめず、ずれる場所を分ける

音程とピッチは、似た場面で使われる言葉ですが、厳密には意味が違います。

音程は、2つの音の間にある距離。

ピッチは、音がどれくらい高く・低く知覚されるか。

歌の現場では、「音程が外れる」という言葉が、メロディーの狙った高さから声がずれること全般にも使われます。

そのため、用語を完璧に使い分けることよりも、歌い出しなのか、音が動いた瞬間なのか、言葉が変わった瞬間なのか、伸ばしている途中なのかを見ていく方が、実際の練習にはつながりやすくなります。

音程が気になるからといって、一曲すべてを何度も歌い直す必要はありません。

気になる1フレーズを切り出して、基準音を聞く。音と音の距離を見る。必要なら録音やピッチ表示も使う。高音だけ難しいなら、キーや音量、発声条件も変えて比べる。

一つずつ条件を分けていくと、「自分は音痴だから」という大きな悩みではなく、次にどこを練習すればいいのかが少しずつ見えやすくなります。

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