高音を出そうとするとき、口を大きく開けた方がいい。

そう聞いたことがある人は多いかもしれません。

たしかに、口をほとんど開けずに歌うと、声がこもったり、言葉がはっきりしなかったりします。
高音で響きが詰まる人にとっては、口の中に少し空間を作るだけで、声が出しやすくなることもあります。

でも、ここで迷いやすいのが「大きく開ければ開けるほどいいのか」という点です。

高音になるたびに口を思いきり開ける。
顎を下に落とす。
口を縦に開けようとして、顔全体に力が入る。
口角を上げようとして、口が横に引っ張られる。

その結果、声が楽になるどころか、喉が苦しくなることもあります。

高音に必要なのは、ただ大きな口ではありません。
声が通りやすい口の形、顎の余白、舌の位置、母音の調整です。

この記事では、「高音は口を大きく開ければ出る」という考え方を一度分解しながら、歌うときの口の開け方を整理します。

目次

高音は、口を大きく開ければ出るわけではない

高音は、口を大きく開ければ出るわけではない

口を開けること自体は悪くない

まず前提として、口を開けること自体が悪いわけではありません。

歌うとき、口の中や喉まわりの空間は、声の響きに関わります。
声は、肺から送られた空気によって声帯が振動し、その音が舌・唇・口・鼻などの動きで形づくられます。NIDCD、つまりアメリカ国立聴覚・コミュニケーション障害研究所も、声は声帯の振動で生まれ、口や鼻の動きによって音が形づくられると説明しています。

そのため、口の形を変えると、声の響き方や母音の聞こえ方は変わります。

たとえば、口をほとんど開けずに「あ」と歌うと、こもったように聞こえることがあります。
反対に、少し顎がゆるみ、舌が固まりすぎていない状態だと、声が前に出やすく感じることがあります。

ここまでは、多くの人が体感しやすい部分です。

ただし、「口を開ける」と「口を大きく開け続ける」は別です。

大きく開けすぎると、顎や舌が固まることがある

高音で口を開けすぎると、顎が下に落ちすぎることがあります。

顎が落ちすぎると、舌の奥が一緒に下がったり、首まわりに力が入ったりしやすくなります。
その結果、口は大きく開いているのに、声の通り道は楽になっていない、という状態が起こります。

見た目では「しっかり開いている」のに、歌っている本人は苦しい。
録音すると、声が太いというより、押し出しているように聞こえる。
高音の直前で顎に力が入り、音程が少し下がる。

こういうときは、口の大きさよりも、顎・舌・首の力みを見た方が整理しやすくなります。

高音は、口の開きだけで決まるものではありません。
息の流れ、声帯の調整、母音、響き、キー設定などが重なっています。

だから、口を大きく開けても苦しいなら、「もっと開ける」ではなく、「どこが固まっているか」を見た方が近道になることがあります。

高音では「大きく開ける」より「母音が通る形」を作る

高音では「大きく開ける」より「母音が通る形」を作る

口の開け方は、母音とセットで考える

歌うときの口の形は、母音と深く関係しています。

「あ」「い」「う」「え」「お」は、それぞれ口の形、舌の位置、唇の使い方が違います。
つまり、同じ高さの音でも、母音によって出しやすさが変わります。

たとえば、高音で「い」が苦しい人がいます。
これは、「い」という母音が悪いわけではありません。
ただ、話すときの「い」の形のまま高音に上がると、口が横に引かれたり、舌が高い位置で固まったりして、響きが狭く感じることがあります。

その場合、「い」をそのまま強く出そうとするより、少し「え」や「いぇ」に近い感覚に寄せると、声が通りやすくなることがあります。

これは、母音調整と呼ばれる考え方です。
母音調整とは、高音や歌いにくい音で、母音の形を少し変えて歌いやすくすることです。

歌唱の研究でも、声道、つまり喉から口までの空間の響きと、歌う音の高さや母音の関係が扱われています。高い音域では、顎の開きや舌の位置などを変えながら、声道の響きを調整する考え方が示されています。

「縦に開ける」は目安であって、正解そのものではない

「口を縦に開ける」と言われることがあります。

これは、口を横に引っ張りすぎる癖がある人には役立つことがあります。
横に引くと、頬、顎、首まわりに力が入りやすく、母音が浅くなることがあるからです。

ただし、「縦に開ける」がそのまま正解になるわけではありません。

縦に開けようとして、顎を落としすぎる。
口の奥を広げようとして、舌の奥が固まる。
あくびの形を作ろうとして、喉の奥を押し下げすぎる。

こうなると、かえって歌いづらくなることがあります。

大切なのは、縦か横かを極端に考えることではありません。

口の前側は開きすぎない。
奥歯まわりに少し余白がある。
舌がガチッと固まっていない。
母音が少し変わることを許せる。
高音で顎を下げすぎない。

このあたりを整えると、高音の口の形は作りやすくなります。

口を横に開くと、高音が苦しくなりやすい理由

口を横に開くと、高音が苦しくなりやすい理由

口角を横に引くと、顔まわりに力が入りやすい

高音で苦しくなる人の中には、口を横に引く癖がある人がいます。

笑顔のように口角を横に引く。
「い」の形のまま高音に上がる。
歯を見せようとして、頬や顎が固まる。
口元だけで明るい声を作ろうとする。

こうなると、顔まわりに力が入りやすくなります。

もちろん、明るい表情や口角を上げること自体が悪いわけではありません。
ただ、口角を「横」に引く意識が強すぎると、顎の自由さが減り、舌も動きにくくなることがあります。

高音では、ほんの少しの力みでも声に出ます。

首が固まる。
顎が前に出る。
舌の奥が盛り上がる。
息が強くなりすぎる。

このような状態が重なると、口は開いているのに、音は上に伸びにくくなります。

口を横に開くと、母音が浅くなりやすい

口を横に開いたときに起こりやすいのが、母音の浅さです。

たとえば、「あ」を歌っているつもりでも、口が横に引かれると「え」に近い響きになることがあります。
「い」をそのまま横に引っ張ると、声が細くなったり、キンとしたり、喉が詰まった感じになることがあります。

高音では、母音が少し変わるのは自然なことです。
ただ、無意識に横へ引っ張って母音が崩れるのと、声が通りやすいように母音を調整するのは別です。

前者は、力みで形が崩れている状態。
後者は、音の高さに合わせて響きを選んでいる状態です。

ここを分けて考えると、「口をどう開ければいいのか」が少し整理しやすくなります。

「横に開くと声帯が閉じない」とは言い切らない方がいい

元記事では、「口を横に開くと声帯がしっかり閉じなくなる」という説明がありました。

ただ、この表現は少し断定が強いです。

声帯の閉じ方は、口角だけで決まるものではありません。
息の量、喉頭まわりの筋肉、発声の強さ、音の高さ、声区のバランスなどが関わります。

そのため、withsingでは次のように整理した方が自然です。

口を横に引くと、顔・顎・舌まわりに力が入りやすくなる。
その結果、母音や響きが狭くなり、高音が苦しく感じることがある。
声帯が閉じないと決めつけるより、力みと母音の崩れとして見た方が調整しやすい。

この方が、読者も自分の状態を責めずに見直しやすくなります。

高音で見直したい口の開け方

高音で見直したい口の開け方

まずは「大きく」ではなく「顎が固まらない」状態を作る

高音で最初に見たいのは、口の大きさではありません。

顎が固まっていないか。
奥歯を噛みしめていないか。
首に力が入っていないか。
舌の奥が盛り上がっていないか。

このあたりです。

口を開ける量は、指が何本入るかで考えるより、「歌ったときに顎が自由に動けるか」で見た方が使いやすいです。

目安としては、話すときより少し余白があるくらい。
無理に大きく開ける必要はありません。

サビ前や高音の直前で、奥歯の噛みしめが少しゆるむ。
下顎が前に出ず、すとんと下に余白ができる。
首の前側が固くならない。

この状態が作れると、高音で押し上げる感じが少し減りやすくなります。

「お」の丸さを使って、口の奥に余白を作る

高音で口が横に引っ張られやすい人は、「お」の形を使うと整理しやすいことがあります。

「お」は、唇が少し丸くなり、口の奥に空間を感じやすい母音です。

ただし、ここでもやりすぎは避けたいところです。

唇を強く突き出す。
口をすぼめすぎる。
喉の奥を押し下げる。
暗い声にしようとしすぎる。

こうなると、かえって声がこもることがあります。

使いたいのは、強い「お」ではなく、少し丸さを借りる感覚です。

たとえば、高音の「あ」が苦しいときに、ほんの少し「お」や「おぁ」に寄せてみる。
「い」がきついときに、少し「いぇ」や「え」に寄せてみる。
「え」が平たくなるときに、少し奥行きを作ってみる。

母音を完全に変えるのではなく、歌いやすい方向に少しだけ寄せる。
そのくらいの調整で十分な場面もあります。

口角は「横」ではなく、頬が少し上がる方向で考える

口角を上げると声が明るくなる、と言われることがあります。

これも、使い方によっては役立ちます。
ただし、口角を真横に引くと、顔まわりが固まりやすくなります。

高音で使いやすいのは、口角を横に引くというより、頬が少し上がる感覚です。

上の歯を少し見せる。
頬骨の下が軽く上がる。
目の下が少し明るくなる。
でも、奥歯は噛みしめない。

このくらいの感覚です。

鏡で見るなら、「笑顔を作る」というより、「顔の前側が少し明るくなる」くらいで十分です。

声が明るくなっても、喉が苦しくなるなら上げすぎです。
響きが前に出るけれど、首や顎が固まらない。
その範囲を探す方が、高音には使いやすくなります。

高音で母音を整える具体的な方法

高音で母音を整える具体的な方法

苦しい母音を、そのまま頑張らない

高音で苦しいとき、同じ母音をそのまま強く出そうとすると、さらに力みやすくなります。

たとえば、

  • 「い」が細くなる
  • 「え」が平たくなる
  • 「あ」が叫び声っぽくなる
  • 「う」がこもる
  • 「お」が重くなる

こういうときは、母音を少しだけ動かしてみると整理しやすくなります。

苦しくなりやすい母音調整の方向
少し「いぇ」「え」に寄せる
横に引かず、少し奥行きを作る
開けすぎず、少し「おぁ」に寄せる
すぼめすぎず、口の奥を固めない
暗くしすぎず、頬を少し上げる

これは、歌詞を別の母音に変えるという意味ではありません。
聴いている人には元の言葉として届きながら、自分の中では少し歌いやすい形に調整する、ということです。

高音では、話し言葉の母音をそのまま保とうとするほど苦しくなることがあります。
歌では、音の高さに合わせて母音が少し変わる余白を持っておくと、声が流れやすくなります。

1フレーズだけ録音して、母音の崩れ方を見る

母音調整は、感覚だけで判断すると迷いやすいです。

そのため、まずは1フレーズだけ録音してみるとわかりやすくなります。

見るのは、うまい・下手ではありません。

  • 高音の直前で口が横に引っ張られていないか
  • 高音で「あ」が叫び声っぽくなっていないか
  • 「い」「え」で声が細くなっていないか
  • 顎が下に落ちすぎていないか
  • 歌詞が聞き取れないほど母音が変わっていないか

このあたりです。

録音を聴いたときに、声が少し楽に聞こえる。
言葉も大きく崩れていない。
喉の負担も増えていない。

この3つがそろうなら、その口の形はひとつの候補になります。

10秒で確認できる「高音前の口チェック」

サビ前や高音の前に、10秒だけ確認するなら、次の3つで十分です。

  • 奥歯を噛みしめていないか
  • 口角を横に引っ張りすぎていないか
  • 顎を下に落としすぎていないか

全部を直そうとすると、歌う前に頭がいっぱいになります。

まずは1つだけで構いません。

高音前に奥歯を少しゆるめる。
「い」の母音で口を横に引かない。
「あ」で顎を落としすぎない。

これだけでも、声の出方が変わることがあります。

場面別に見る、口の開け方の使い方

場面別に見る、口の開け方の使い方

カラオケで高音が苦しいとき

カラオケでは、サビで急に音量を上げようとして、口を大きく開けすぎることがあります。

そのときは、口を開ける前に、まず母音を見ます。

高音の歌詞が「い」や「え」なら、横に引きすぎていないか。
「あ」なら、叫ぶように開けすぎていないか。
「う」や「お」なら、こもりすぎていないか。

1曲全部を直す必要はありません。
苦しい1音、または1フレーズだけで十分です。

高音前に、奥歯を少しゆるめる。
頬を軽く上げる。
母音を少し歌いやすい形に寄せる。

このくらいなら、カラオケ中でも取り入れやすくなります。

練習前に口の形を整えたいとき

練習前は、いきなり大きな声を出すより、口まわりを少し動かしておくと入りやすくなります。

たとえば、30秒だけ次の流れで確認します。

  • 軽く口を閉じて、奥歯の噛みしめをゆるめる
  • 「んー」と小さく鼻歌を出す
  • 「んーま」「んーも」で、口を開けすぎずに声を出す
  • 「ま・め・み・も・む」を小さめの音量で言う
  • 高音に行く前に、顎が固まっていないか確認する

目的は、大きく開けることではありません。
顎と唇が自由に動く状態を作ることです。

サビ前に力みやすいとき

サビ前に力みやすい人は、口の開け方よりも「準備が早すぎる」ことがあります。

高音が来る前から、顎を開ける。
首を固める。
息を吸いすぎる。
顔を作りすぎる。

すると、実際に高音に入る前から、身体が構えてしまいます。

サビ前は、あえて口を開けすぎない方がよい場合があります。

高音の直前までは、言葉をはっきり置く。
高音に入る瞬間だけ、少し母音を調整する。
顎を大きく落とすのではなく、奥に余白を作る。

この方が、声が上に向かう余地を残しやすくなります。

うまくいかないときに見直したいこと

うまくいかないときに見直したいこと

口を開けるほど苦しいなら、顎を下げすぎているかもしれない

口を開ければ開けるほど苦しくなる場合、顎が下に落ちすぎている可能性があります。

顎が落ちすぎると、首の前側や舌の奥が固まりやすくなります。
その状態で高音を出そうとすると、声を押し上げる感覚になりやすいです。

見直すなら、口を少し小さくしてみます。

「もっと開ける」ではなく、「少しだけ戻す」。
そして、母音が通る位置を探します。

高音は、開けた量ではなく、声が通る形で考える方が調整しやすくなります。

声がこもるなら、唇を丸めすぎているかもしれない

「お」の形やあくびの感覚を意識しすぎると、声がこもることがあります。

口の奥を広げようとして、唇をすぼめすぎる。
喉を開こうとして、声が暗くなる。
響きを深くしようとして、言葉がぼやける。

この場合は、少し頬を上げる方向に戻すと、声が前に出やすくなることがあります。

深さと明るさのどちらか一方ではなく、両方のバランスを見る。
高音では、この調整が大切になります。

歌詞が聞き取りにくいなら、母音を変えすぎているかもしれない

母音調整は役立ちますが、変えすぎると言葉が聞き取りにくくなります。

「い」を「え」に寄せすぎる。
「あ」を「お」に寄せすぎる。
「う」を丸めすぎる。

こうなると、歌いやすくはなっても、歌詞の意味が届きにくくなります。

録音して、言葉が残っているかを確認すると判断しやすいです。

聴いている人には歌詞として届く。
歌っている自分は少し楽。
喉の負担が増えていない。

このあたりが、母音調整の使いやすい範囲です。

口の開け方だけで高音が変わらないとき

口の開け方だけで高音が変わらないとき

息の量が多すぎる場合

口の形を整えても高音が苦しい場合、息の量が多すぎることがあります。

高音になると、たくさん息を出したくなります。
でも、息を増やしすぎると、喉まわりが耐えようとして固まりやすくなります。

その場合は、口を開けるより先に、声量を少し落としてみる方が整理しやすいです。

小さめの音量で高音の母音だけ確認する。
その後、少しずつ歌詞に戻す。

この順番の方が、力みを減らしやすくなります。

キーが高すぎる場合

口の開け方を整えても毎回同じ場所で苦しいなら、キーが高すぎる可能性もあります。

どれだけ口を整えても、今の声に対して負荷が大きすぎる音域では、無理が出ます。

原曲キーにこだわりたい気持ちは出やすいです。
ただ、歌を続けるなら、キーを下げることも選択肢です。

キーを下げることは、逃げではありません。
声に合う高さで、曲の良さを出すための調整です。

喉の痛みがある場合

口の開け方を変えても、喉の痛みが出る場合は、練習を続けるより休む判断が必要です。

痛み、強いかすれ、声が戻らない感じがあるときは、口の形の問題だけではないことがあります。

その日は高音練習を減らす。
小さめの声にする。
長引く場合は、耳鼻咽喉科など専門家に相談する。

歌を続けるためには、無理に押し切らないことも大切です。

まとめ|高音に必要なのは、大きな口ではなく、声が通る形

高音に必要なのは、大きな口ではなく、声が通る形

高音は、口を大きく開ければ出るわけではありません。

たしかに、口の中に余白を作ることは大切です。
でも、開けすぎると顎や舌が固まり、かえって声が詰まることがあります。

見直したいのは、口の大きさだけではありません。

顎が固まっていないか。
口角を横に引きすぎていないか。
舌の奥が力んでいないか。
母音が高音に合う形になっているか。
声量を上げすぎていないか。

ここを分けて考えると、高音の苦しさは少し整理しやすくなります。

今日できることは、ひとつで構いません。

サビ前に奥歯をゆるめる。
「い」を少し「いぇ」に寄せる。
「あ」で顎を落としすぎない。
1フレーズだけ録音して、口の形を確認する。

小さな調整でも、声の通り道が変わることがあります。

歌うことを、無理に押し上げるものではなく、続けられる形に。
そのために、自分の声に合う口の開け方を少しずつ探していきましょう。

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